NUBIC NEWS 2016年2月号特集 地域連携

省エネルギー・再生可能エネルギーの利用を通した地域連携教育

1. エネルギー利用の見える化

 1990年代以降,世界的なエネルギー資源の枯渇や地球規模の環境問題,特に温室効果ガスの増加による地球温暖化などにより省エネルギー,再生可能エネルギーの利用が人類の大命題となりました。さらに,日本では約5 年前の東日本大震災の発災がそれに拍車をかけています。

 このような情勢を背景にして,我々はエネルギー問題に対する貢献の道を探っていました。平成24年に創設された本学の研究助成制度である理事長特別研究の目的が,エネルギー利用の見える化「研究成果を広く社会に還元すると共に,本学の教育研究及び運営にも積極的に活用できる研究を推進する」であることに着目し,この研究プロジェクトを利用してエネルギー問題に貢献することにしました。本研究では,私を代表者として文理学部(竹村,竹内,小林准教授,藤森教授),理工学部(金島特任教授),工学部(柿崎教授,伊藤准教授,etc),本部管財部と関係学部管財課(事務局)の4つの組織からなる混成チームを構成し,それぞれの研究テーマを1. 深部地中熱の利用,2. エネルギー利用の見える化,3. 浅部地中熱の利用と排水処理方法の確立,4. 省エネルギー・再生可能エネルギーの利用の実態調査に分担して研究を推進しました。その後,本研究プロジェクトは多くの成果を上げ3年間継続されました。

2. 地域連携研究の継続

 「エネルギー利用の見える化」は,当初文理学部内の電力の見える化を実現するためにキャンパス内の分電盤にエネルギー消費を計測する装置を設置し,それをキャンパス内のネットーワークに接続しリアルタイムに利用状況を把握するシステムを構築するといった形で進められました。しかし,エネルギーの効率的な利用や発災時のエネルギーの共同利用などを考えると文理学部キャンパス内に留めるだけでは十分な効果が見込まれず,見える化の地域への面的拡大の必要性が認識され,キャンパス近隣の公共施設,特に教育機関[赤松学舎(世田谷9年教育学区):松沢中学校,赤堤小学校,松沢小学校,みどりの学び舎(同):緑丘中学校,経堂小学校,八幡山小学校]そして日大付属校(日大櫻丘高校,宮崎日大高校,札幌日大高校)を取り込んで研究を進めることになりました。研究開始2年目から近隣の小中学校と日大付属校を対象に,見える化装置の設置とデータ収集のためのコンピュータネットワーク構築に向けて,協力各校や世田谷区の教育委員会と連携して研究を推進しました。近隣小中学校及び世田谷区とは本研究に関する協定書を締結し全面的な協力関係を築き上げました。

 本年度より,理事長特別研究の終了を受けて,各協力校に設置した見える化装置の今後の活用を目指し,世田谷区,各協力校そして文理学部の間で協定を延長して共同連携研究を継続することになりました。地域連携研究の継続そして,この共同連携研究を「小・中学校(又は高校)の電力エネルギー見える化プログラム」と命名しました。

 本研究は,まず,ハード面では各校に総電力の使用量の計測機を設置し,さらに職員室と教室(各校2教室)に温度,湿度,照度センサー及び二酸化炭素濃度センサーを設置して,それらのデータをインターネットで文理学部のサーバーに集約し,それをセキュアーなWebシステムで各校に情報を配信するというシステムが構築されています。

 本地域連携研究の目的は2つあります。1つ目は,各学校のエネルギー利用の実態をデータで把握し,そのデータをもとに施設のエネルギー利用の効率化を図ることです。2つ目は,このシステムを利用して児童・生徒の教育に資することです。

3. 文部科学省のESD教育支援

 特に,ユネスコの提唱するESD教育の中のエネルギー学習,防災学習,環境学習などと直結した教育が可能なのではないかと考えています。文理学部は文学系・社会学系・理学系18学科を擁する総合大学並みの学術分野を抱えている学部ですので,見える化そのものにとどまらず,文部科学省のESD教育が提唱する二つの観点『人格の発達や,自律心,判断力,責任感などの人間性を育むこと』,『他人との関係性,社会との関係性,自然環境との関係性を認識し,「関わり」,「つながり」を尊重できる個人を育むこと』を踏まえた教育をサポートすることが可能であると自負しています。

 本地域連携研究を推進する上で,世田谷区,小中学校そして文理学部の連携は重要です。今後この三者の連携をいかに深めることができるかが本研究の成否を左右すると考えています。さらに,本研究を契機として,様々な分野での地域連携が構築できることを望んでいます。文部科学省のESD教育支援連携教育に関しては,小中学校における本装置を利用した学習はエネルギー教育をただ概念的に教え込むだけではなく自分たちの学校に設置されたデータをリアルタイムに視認することでエネルギー利用に関するリアリティ感が増し,教育効果が期待できると思われます。教室の窓を開けることで二酸化炭素の濃度が激減する,また温度・湿度が上下するといった効果を目の当たりにすることにより省エネの意味・意義を体感することが重要なのではないでしょうか。再生可能エネルギーの利用推進もさることながらエネルギー利用を施設の中で総合的に効率的に制御することの重要性は言うまでもありません。このようなことを児童・生徒に教育することの意義は大きいと考えています。今後も大学のもつポテンシャルを生かして地域の教育に貢献するつもりです。