NUBIC NEWS 2016年2月号特集 地域連携

商学部における地域とのコミュケーション

1. 地域企業と連携した技術者集団

 本研究室は,東日本大震災からの地域復興を支援するための事業である「地域イノベーション戦略支援プログラム」(復興庁/文部科学省管掌)を実施するため,平成24年に工学部に設置された研究室です。メンバーは福島県内外からの招聘研究者や,企業の出向者などで構成されており,直接的な学生指導は行っておりませんが,OJT によって将来の地域の地中熱利用事業を担う専門家育成を実施しております。平成26年度からはNEDO委託研究「一般住宅向け浅部地中熱利用システムの低価格化・高効率化の研究」も受託し,個人住宅や小規模商業施設を主な対象として,地中熱利用(特に浅部地中熱利用)熱供給システムの継続的事業化に向けた研究開発を進めています。 また,再生可能エネルギー利用によるコミュニティのエネルギー自立システムに関する研究などにも取り組んでおります。

2. 地中熱利用システムの低コスト化にむけて

 本研究室で主に開発している地中熱ヒートポンプシステムは,エアコンと同じような空調用熱供給システムです。エアコンと異なるのは,エアコンの室外機で行われる採熱や放熱が周囲の空気ではなく,地下土壌に対して行われる点です。

 一般的なシステムでは,地下土壌から採熱/放熱するために,鉛直長さが数十〜200mに及ぶ「地中熱交換器」を設置しますが,このコストが非常に高く,普及阻害要因となっています。工学部ではかねてより,鉛直長さが20m以下と,比較的短い新築住宅向け鋼管基礎杭を利用した地中熱交換器を利用する「浅部地中熱利用システム」について萌芽的研究が進められ,地中熱交換器設置コストの大幅削減が期待できるとされていました。本研究室では,その短い地中熱交換器を群利用する概念をさらに発展させ,福島県内の企業とともに継続的事業を実現するための技術開発を進めてきました。特に地中熱交換器設置方法については,回転埋設型熱交換器の新規開発,柱状改良を含めた基礎杭の利用や,福島県の支援を受けて県内企業との共同開発中の小口径ボーリングマシン(平成28年2月完成予定)の利用などで,新築,既築を問わず,従来工法よりも短時間・低コスト・低騒音での施工が可能となりました(図1:地中熱交換器)。

 また現在利用されている地中熱向けヒートポンプも高価格であるため,新たに県内外の企業と共同で,エアコン室外機と同サイズの,低価格型5kWモデルを共同開発中で,平成28年度下期にシステム要素として市場展開されます。さらに福島県内外の複数企業と(公財)郡山地域テクノポリス推進機構の助成を受けて,低価格室内機(除湿機能付き)を開発しました。その他,空調機や床暖房機器の開発も進めています(図1:地中熱用ヒートポンプ・室内機)。

 このように,システムの様々な側面においてイノベーションを図ることにより,研究室設立から3年でシステムの導入コストを大きく下げられるようになりました。

3. システム全体を見通した開発

 地中熱は,システムの運転累積時間とともに採熱/放熱が難しくなってきます。そのためシステム設計技術開発では,数値解析を用いた評価や実証設備を用いて永続的な採熱/放熱が可能な運転パターンの検証を行っています。また,施工箇所の地質から採熱量を見積もる地中熱リファレンスマップと呼ばれるGISアプリケーションを開発しています(図1:設計技術)。

4. ユーザ目線の商品開発

 このシステムは,主に一般個人住宅が市場対象です。そのため,使い勝手がよく,快適で,初期投資が少なく,かつ運用コストが小さいなど,ユーザのメリットが多くないといけません。想定される競合機種は,一般的なエアコン(空気熱源式ヒートポンプシステム)です。これまでシステムの低価格化を進めてまいりましたが,今後はさらなる省エネルギー性・低運用コストなどの付加価値を検証することで商品価値をさらに高めることを目指しています。

 現在,郡山市内に建設された新築住宅において浅部地中熱利用システムが稼動しています。ここでは実生活の冷暖房機器としてこのシステムを使用していただくことで,使い勝手や耐久性の評価を行っています。その結果を実設計手法へ反映し,より快適なシステムへの改良を図っていきます。

5. 福島県内における自治体との連携

 本研究室では県内企業だけではなく,自治体との連携も行っております。郡山市湖南町の旧赤津小学校(廃校)を利用した郡山市・日本大学工学部再生可能エネルギー共同実験施設は,国内でも最大規模の地中熱利用システムの実験場で,平成27 年度より稼働しております(図2)。ここでは旧校舎でヒートポンプなどの機器開発とシステム実験を実施するとともに,旧校庭には複数の実験棟を設置し,浅部地中熱利用システムと従来型の地中熱利用システムとの比較,また通常の空気式エアコンとの性能比較を行っております。この施設では地元の高校生や住民の方の見学も受け入れており,再生可能エネルギー学習施設としても今後大いに活用されると期待されます。

 また,原発事故により一時全村避難となった双葉郡葛尾村では,帰村に向けて村内に室内機制御試験施設と体験施設の併用による実験場を建設中であり,地中熱以外の再生可能エネルギーも含めたシステム総合実験場としての構想も進めるなど,再生可能エネルギーを利用した復興支援を行っております。

(小熊正人/船引彩子 共著)

工学部機械工学科 再生可能エネルギーシステム研究室  主任研究員・博士(学術)

図1 浅部地中熱利用システムの低コスト化に向けた取り組み
図2 郡山市湖南町の旧赤津小学校(廃校)を利用した郡山市・日本大学工学部再生可能エネルギー共同実験施設